- MIT CREATIVE
- 2026.10.21
ゲームボイスとナレーションで異なる音声処理について〜エディターが判断する「消す音」と「残す音」
ゲームの制作現場には、制作チーム、ディレクター、演者、エンジニアなど、さまざまな役割を担う部署・スタッフが関わっています。その中でエムアイティギャザリングのエディターが担当しているのは、収録された音声からノイズや不要な音を取り除く作業です。
声優さんの収録では、演技やセリフそのものだけでなく、リップノイズやブレスを始め、様々な音が一緒に収録されます。エディターは、それらの音声を一つひとつ確認し、必要に応じて不要な音を取り除いていきます。
音声編集は「ノイズを消して声を聞きやすくする仕事」と思われがちですが、もちろん、それも音声編集の大切な仕事のひとつです。しかし、実は同じ「人の声」を編集する場合でも、ゲームのキャラクターボイスとナレーションでは、編集するときに意識するポイントが少し異なります。
今回は、そんな「ゲームボイスとナレーションの編集の違い」について紹介します。
収録音声に含まれる主な「不要な音」
声優の収録では、セリフや演技と一緒にさまざまな音がマイクに入ります。代表的なものは次のとおりです。
- リップノイズ:口を開閉する際や舌の動きで生じる「ピチャ」「チッ」という小さな音
- ブレス:セリフの前後や途中で入る息継ぎの音
- ポップノイズ(吹かれ):パ行・バ行などの破裂音で、息がマイクに直接当たって生じる「ボフッ」という低い音
- 衣擦れ・動作音:体の動きや台本をめくる音など
- 環境ノイズ:空調や機材から生じるわずかな持続音
エディターは波形やスペクトログラム(音の周波数を視覚化した表示)で音声を確認しながら、これらを一つひとつ処理します。ノイズ除去ソフトで一括処理すると声の質感まで損なわれることがあるため、必要な箇所だけを部分的に削除・軽減するのが基本です。
ゲームボイスは「演技を活かす」
ゲームのキャラクターボイスでは、何よりもキャラクターの演技や感情を損なわないことが重要です。
例えば、「……お前、何してるんだよ」というセリフがあったとします。
この「……」という間や、少し震えた声、息を吐く音などは、単なる余計な音ではなく、キャラクターの感情を表現するための大切な要素かもしれません。そのため、音声を綺麗にするために何でもかんでも取り除いてしまうと、「音は綺麗になったけれど、なんだか演技が不自然になった」ということが起こります。
ゲームボイスの編集では、「この音はノイズだから消そう」だけではなく、「この音はキャラクターの演技として必要なのか?」という視点も大切になります。
ナレーションは「聞き取りやすさ」を重視
一方ナレーションでは、情報を正確に、そして聞き取りやすく伝えることが重要です。
例えば、商品の紹介や施設の案内などでは、話している内容がスムーズに聞き取れることが求められるため、不要なブレスや不自然に長い間を削除することがあります。ゲームボイスでは「演技として残す」ことがある息遣いや間も、ナレーションでは聞き手の集中を妨げる場合があるため、状況に応じて処理します。
「綺麗にする」=「全部消す」ではない
音声編集では、ノイズや不要な音を取り除いていく作業が多くあります。しかし、編集の目的は「音を綺麗にすること」だけではありません。ゲームボイスなら、キャラクターの感情や演技が自然に伝わること。ナレーションなら、話している内容が聞き手に分かりやすく伝わること。そのためには、「何を残すべきか」を判断することが重要です。音声編集という仕事は、完成した作品を見たり聞いたりするだけでは、なかなか気付かれにくい仕事かもしれません。
しかし私たちエディターにとっては、「編集されている」と視聴者に意識されることなく、作品の中に自然に馴染んでいる音声を作ることこそが理想のひとつです。不要な音を取り除きながらも、声優さんの演技やナレーションの表現を損なわない。その結果、視聴者の方がセリフや物語に集中して楽しんでいただけるのであれば、それが私たちにとって何より嬉しいことです。
普段何気なく聞いているゲームのセリフやナレーションも、実はこうした細かな編集を経て、皆さんの耳に届いています。これからゲームをプレイしたり、ナレーションを聞いたりする際は、ぜひ「この声にはどんな編集がされているんだろう?」という視点でも聞いてみてください。
音声でお困りのことがございましたら、お気軽ににご相談・お問合せ下さい。
著者:齋藤和奏(エディター)