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  • 2026.09.11

HA(Head Amp/マイクプリアンプ)の名機「AMEK 9098 EQ」の魅力と「Neve 1073」との違いについて

こんにちは!音楽エンジニアの安田です。

今回は、MIT STUDIOのSTUDIO1・STUDIO2にそれぞれ1台ずつ常設しているHA(Head Amp/マイクプリアンプ)、「AMEK 9098 EQ」をご紹介いたします。

AMEK 9098 EQ

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STUDIO1/STUDIO2

以前ある案件でボーカルとナレーションの両方を録る機会があり、その際に実際に使ってみて「音質」「機能性」「操作性」のいずれもがとても高いと感じた一台です。現在ではヴィンテージ機材として扱われることも多く「今更その紹介か!」と方々からツッコまれそうですが、最近では歌をご自宅で録音される方も増えてきており、中古市場でも比較的手に入りやすい機材ですので、今回ご紹介いたします。

AMEK 9098 EQとは — 名機コンソールから生まれたチャンネルストリップ

AMEK 9098 EQの大きな特徴は、あのルパート・ニーヴ(Rupert Neve)氏が設計に携わっていることです。

ニーヴ氏は1989年以降、自身のコンサルティング会社を通じて英マンチェスターのAMEK社と協業関係に入り、コンソールやアウトボードの設計を手がけていきます。その集大成として1990年代半ばに生まれたのが、大型アナログコンソール「9098」でした。AMEK 9098 EQは、この9098コンソールの回路研究とその設計思想をそのまま受け継ぎ、1Uのラックマウント機として1ch分を切り出したモデルです。

つまり、超大型コンソールの入力段に相当するクオリティを、卓を導入することなく手元のラックで使える——これが9098 EQという製品の立ち位置になります。Neve系機材らしい音楽的な質感と、モダンな扱いやすさを両立している点が魅力です。

設計者ルパート・ニーヴ氏について

ルパート・ニーヴ氏(1926-2021)は、「モダン・レコーディングコンソールの父」とも称される英国出身のオーディオ設計者です。イングランドのニュートン・アボットに生まれ、幼少期をアルゼンチンで過ごすなかで独学でラジオの修理や製作に没頭し、17歳で英国陸軍通信部隊に志願。戦後は移動録音システムやPAシステムを手がけました。

1961年にNeve Electronicsを設立。1970年にはロンドンのWessex Studios向けコンソール「A88」用として、後に伝説となるモジュール「1073」を設計します。1970年代半ばに同社を離れた後も設計者としての歩みは止まらず、1985年にFocusriteを設立してISA110などの名機を世に送り出し、その後AMEKとの協業で9098シリーズを、さらに1994年に米テキサスへ移住し、2005年にはRupert Neve Designsを設立しています。1997年にはテクニカル・グラミー賞(生涯功労)を受賞。2021年2月12日に94歳で逝去されました。

9098 EQは、そのキャリアのなかでも「1073の時代から四半世紀分の知見が積み上がった後」の設計である、という点を押さえておくと、後述する音の違いも腑に落ちるかと思います。

AMEK 9098 EQの主なスペック

  • マイクゲイン:0〜66dB(6dBステップ)
  • ファイントリム:±6dB
  • EQ:4バンド
    • LF:30Hz〜300Hz
    • LMF:30Hz〜1kHz
    • HMF:500Hz〜4.5kHz
    • HF:2kHz〜21kHz
  • EQゲイン:最大±18dB(±9dBに切り替え可能)
  • HPF:20〜300Hz、18dB/oct
  • LPF:4.5〜30kHz、18dB/oct
  • 入出力:XLR
  • サイズ:約482×44.5mm、1U

マイクプリアンプ部 — TLA回路と扱いやすいゲイン構成

マイクプリアンプ部には、TLA(Transformer-Like Amplifier)と呼ばれる回路を採用しています。これは「トランスのように振る舞うアンプ」という意味で、実際にはマイク入力にトランスを使っていません。ニーヴ氏自身がインタビューで、「出力トランスは駆動アンプと一体で設計できるため高い性能を出せるのに対し、入力トランスは接続される機器のインピーダンスを制御できないぶん格段に難しい」と語っています。TLAはその難しさを回避しつつ、トランスらしい質感を得ようという発想の回路です。

実際の操作で気に入っているのが、6dBステップのゲインと±6dBのファイントリムという二段構えの構成です。ステップ式のゲインは再現性が高く「前回と同じ設定」を確実に呼び戻せる一方で、細かいレベル調整には向きません。そこをトリムが埋めてくれるので、ゲインを決め打ちした後でも、演者さんの声量に合わせてスムーズにレベルを追い込めます。歌録りのように本番中にコンディションが変わっていく現場では、この差がかなり効いてきます。

また、+48Vファンタム電源、位相反転、ライン入力にも対応。マイクだけでなくさまざまなソースを柔軟に受けられる点も魅力です。

4バンド・フルスイープEQとフィルター

9098 EQのもう一つの主役が、4バンドのフルスイープEQです。各バンドの可変範囲が広く、隣り合うバンド同士がオーバーラップしているため、「このあたりを持ち上げたい」と思った帯域に、ほぼ確実に手が届きます。各バンド最大±18dBのブースト/カットが可能で、加えてハイパス/ローパスの両フィルターを独立して備えています。

単純に「太くする」「明るくする」だけではなく、不要な低域を整理したり、ボーカルの存在感を調整したり、楽器の特定の帯域を狙って処理したりと、かなり細かな音作りができます。カーブそのものが緩やかで音楽的なので、大きめに動かしても不自然になりにくいのも、この時代のニーヴ設計らしいところです。

比較対象としての「Neve 1073」とは

9098 EQの音を語るうえで、どうしても引き合いに出したくなるのが「Neve 1073」です。

1073は1970年、ロンドンのWessex Studiosが発注したコンソール「A88」の入力モジュールとして誕生しました。クラスAのディスクリート回路と、入出力に配されたMarinair(マリンエア)仕様のトランスが特徴で、本来は信号のアイソレーションのために採用されたトランスが、結果として心地よい倍音を付加する——という“意図せぬ副産物”が、後に「British Sound」と呼ばれる質感を生み出しました。

EQは3バンド構成で、高域は12kHz固定のシェルビング、中域は360Hz〜7.2kHzの6ポイントから選ぶピーキング、低域は35/60/110/220Hzから選ぶシェルビング。さらに18dB/octのハイパスフィルターを備えます。ポイントが固定されているぶん自由度は高くありませんが、そのポイント選定自体が絶妙で、動かせばまず“良い方向”に転ぶ。半世紀を経てなお第一線で使われ続けているのは、この懐の深さゆえだと思います。

AMEK 9098 EQとNeve 1073の音の違い

MIT STUDIOの音楽エンジニアが歌録りの際にファーストチョイスにしやすいのは、やはり1073です。その1073と比較すると、9098 EQは歪み感(特に高域)が少なく、抜けが良い印象があります。

これは感覚の話にとどまりません。1073の「濃さ」がマイク入力トランスの飽和に由来するのに対し、9098 EQの入力段はトランスを持たないTLA方式です。両者の差は設計思想そのものの違いであり、耳で感じる印象がそのまま回路構成に対応している、というわけです。

とはいえ線が細くなるわけではなく、しっかりと音の太さも持ち合わせているため、フラットでバランスの取れた録り音が得られます。ミックスで後から作り込む前提のトラックや、素材そのものの質感を残したい場面では、9098 EQのほうが結果的に扱いやすいケースも少なくありません。

MIT STUDIOでの活用シーンとまとめ

MIT STUDIOでは歌録りだけでなく、ナレーション・セリフ収録でもこの機材を重宝しています。喋りものは可聴帯域全体の情報が明瞭に残ってほしい一方で、痩せた音では説得力が出ません。その両立という点で、9098 EQは非常にバランスの良い選択肢になってくれます。

AMEK 9098 EQは、マイクプリ、EQ、フィルターを一台にまとめた完成度の高いアナログ・チャンネルストリップです。特に、録音段階から音のキャラクターを積極的に作り込みたい方にとって、魅力の詰まった機材ではないでしょうか。

MIT STUDIOでは、STUDIO1・STUDIO2に一台ずつ常設しておりますので、「実際に使って収録してみたい!」などありましたら、お気軽にご相談・お問合せください!

著者:安田昂世(音楽エンジニア)

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