TOP > TOPICS(更新記事一覧) > MIT Artists > レコーディングスタジオの現場にて制作サイドが「この役者さん、上手い」と感じる瞬間3選
  • MIT Artists
  • 2026.07.03

レコーディングスタジオの現場にて制作サイドが「この役者さん、上手い」と感じる瞬間3選

これまでのブログ記事では、新人声優が収録現場で知っておくと役立つ知識や、文脈を意識することの大切さについてお話ししてきました。今回は少し視点を変えて、制作やマネージャーとして、レコーディングスタジオの現場に立ち会う中で「この方は上手いな」と感じる瞬間についてお話しいたします。

まず前提として、「滑舌が良い」、「読み間違えない」、「声がガラつかない」、「裏返らない」といった技術は、プロとして非常に重要です。現場ではそうした安定感があるからこそ、安心して収録を進めることができます。その上で、私が特に「上手い」と感じるのは、技術力だけではない部分です。

①自分で解釈の違いに気付ける

収録では、演じている途中に「この解釈は違う」と自分で気付き、自主的にリテイクをする人がいます。もちろん、ディレクターから指摘を受けて修正することは珍しくありません。ですがリアルタイムで違和感に気付き、すぐに修正できるということは、それだけ作品やシーンを深く考えながら演じているということでもあります。収録現場では、こうした瞬間に「この人は上手いな」と感じることがあります。

②ディレクションの意図を汲み取れる

収録では、「もう少しテンション高めでお願いします」といったディレクションが入ることがあります。この時、本当に求められているのは何でしょうか。声を大きくしてほしいのか、明るく演じてほしいのか、それとも前向きな感情を乗せてほしいのか。同じ言葉でも、ディレクターが伝えたいことは作品やシーンによって異なります。上手い方ほど、言葉どおりに受け取るのではなく、その意図を考えながら芝居に反映させています。

③台本に書かれていない部分まで想像できる

ゲームボイスの台本では、すべての状況が細かく説明されているとは限りません。それでも上手い方は、ト書きや前後の情報から、「このキャラクターは今どんな気持ちなのか」、「相手との距離感はどうなのか」といった、台本には書かれていない部分まで想像しながら演じています。もちろん、想像だけで突き進むのではなく、分からない時はディレクターへ確認することも大切です。

その上で、自分なりの解釈を持って収録に臨める方は、現場でも安心感があります。演技が上手いというと、感情表現や声の良さを思い浮かべる方が多いかもしれません。もちろんそれも大切ですが、制作として現場に立ち会っていると、「考えながら演じられる人」ほど、結果的に良いテイクへたどり着く場面を数多く見てきました。

レコーディングスタジオでの収録で求められるのは、技術だけではありません。作品を理解し、相手の意図を考え、その場で柔軟に表現へ落とし込む力もまた、声優として大切な能力の一つなのだと感じています。

まとめ

今回は、レコーディングスタジオの現場で制作サイドが「この役者さんは上手い」と感じる瞬間として、「自分で解釈の違いに気付ける」、「ディレクションの意図を汲み取れる」、「台本に書かれていない部分まで想像できる」という3つをご紹介しました。

改めて振り返ると、この3つに共通しているのは、いずれも「考えながら演じている」ということです。滑舌や発声といった技術は、プロとして立つための大切な土台です。しかしその土台の上で良いテイクを生み出しているのは、作品を理解し、相手の意図を想像し、自分の芝居を客観的に見つめ直す力なのだと感じています。

能楽を大成した世阿弥は、「離見の見」という言葉を残しています。観客の視点から自分自身の姿を眺めるように、演者は常に己を客観視すべきだという教えです。数百年前の言葉ですが、演じている最中に自ら違和感に気付き、リテイクできる方の姿は、まさにこの教えと重なるように思います。演技の形や収録の技術は時代とともに変わっても、「演じる自分を、もう一人の自分が見つめる」という芸事の本質は、昔も今も変わらないのかもしれません。

そしてもう一つお伝えしたいのは、こうした力は特別な才能ではなく、日々の積み重ねで育てられるということです。台本を受け取ったら前後の文脈まで想像してみる。ディレクションを受けたら「なぜその指示が出たのか」を一度考えてみる。そうした小さな習慣の一つひとつが、「考えながら演じられる役者」への確かな一歩になります。

収録現場は、役者・ディレクター・制作が一つのチームとなって作品を作り上げる場所です。だからこそ、考え、想像し、対話しながら演じられる方は、現場全体に安心感をもたらしてくれます。この記事が、これから現場に立つ新人声優の皆さまにとって、演技を磨くヒントになれば幸いです。

関連リンク

著者:齋藤 亮(制作)

TOPICS一覧に戻る

topへ戻る