- MIT Artists
- 2026.06.23
新人声優が意識しておきたい「文脈」の力~同じセリフでも正解は一つではない
今回もゲーム収録を中心に、新人声優の皆様へ向けた入門的なアドバイスをお届けします。
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皆様は「はぁって言うゲーム」をご存じでしょうか。
同じ「はぁ」という一言でも、感心しているのか、呆れているのか、怒っているのか、によってまったく違う意味になります。これはゲームボイスの収録現場でも同じです。文字だけで見ればまったく同じセリフでも、前後の状況によって求められる芝居は大きく変わります。今回はそんな「文脈」のお話です。
「ありがとう」は一つではない
例えば、「ありがとう」というセリフがあったとします。
誰に向けて言うのか
親なのか、ライバルなのか、お客様なのか、子供なのか。
なぜその言葉を発するのか
心から感謝しているのか、社交辞令なのか、それとも仕方なく言っているのか。さらに、相手との距離感や、その場の状況も重要です。戦闘中なのか、恋愛感情があるのか、怪我をしているのか。
単体の言葉だけを見ると同じ「ありがとう」でも、解釈を間違えるとずれた芝居になってしまいます。
台本の前後を読む理由
新人の頃は、自分のセリフだけを追いがちです。与えられた文章を間違えずに、聞きやすい声で読む。それだけで精一杯という方も少なくありません。しかし実際には、自分のセリフ以外の「情報」が重要になります。
セリフ以外の「情報」が重要
・何に対する返答なのか
・相手との関係性はどうなのか
・シーン全体の温度感はどうなのか
台本の前後が見られる場合は、そこに多くのヒントが隠されています。
一方で、ゲーム収録ではいわゆる「汎用ボイス」のように、特定のシーンに限定されず様々な場面で使用されるセリフもあります。その場合、ト書きだけでは判断できないことも少なくありません。そうした時は遠慮せず、ディレクターへ確認することをおすすめします。
「立てる言葉」が変わる
今回、一番お伝えしたかったのは、実はこちらです。
例えば、「新しい靴が欲しい」というセリフがあったとします。
ボロボロの靴しか持っていない人であれば、「新しい」を立てるでしょう。バッグや帽子ではなく、今何が欲しいかを聞かれた場面であれば、「靴が」を立てるかもしれません。いくらお願いしても買ってくれない親に、しつこくおねだりをしているのであれば、「欲しい」を立てるでしょう。
同じセリフでも、どこを立てるべきかは文脈によって変化します。
収録現場ではどうなるか
収録現場ではディレクターから、「そこは『新しい』を立ててください。古い靴との対比なので」といったディレクションが入ることがあります。これは発声や滑舌の問題ではありません。シーンの解釈の問題です。膨大なセリフを収録するゲームボイスの現場では、こうした意図を素早く汲み取り、適切な表現に変換できる方ほど「上手い人」だと感じます。
もちろん最初から完璧にできる必要はありません。ですが、セリフの意味だけでなく、「なぜその言葉を発しているのか」を考える習慣を持つことで、お芝居の解像度は大きく上がります。レコーディングスタジオで求められるのは、言葉を読むことだけではありません。「誰に向けて、どんな気持ちで発せられた言葉なのか」。その背景や感情を理解することです。
文脈を意識することで、同じセリフでも表現の幅は大きく広がります。これから収録現場に立つ皆さまにとって、少しでも参考になれば嬉しいです。
著者:齋藤 亮(制作)